浄土宗の開祖・法然は岡山生まれ! 出生の地にある「誕生寺」を訪ねて

2024年に開宗850年を迎える浄土宗。その開祖である法然上人の出身地が岡山だということをご存じですか? 岡山県久米郡久米南町の 「誕生寺」は、法然上人が生まれた場所に建つ寺院。秋には黄金色に色づく樹齢約870年のイチョウの大樹でも有名です。唐破風造りの向拝を持つ本堂や国指定重要文化財の山門、八百屋お七の供養をしたと伝わる観音堂、襖絵が見事な客殿など、見どころいっぱいの「誕生寺」を訪ねました。
掲載日:2023年05月24日
  • ライター:おか旅編集部
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「誕生寺」はどんなお寺?

美作国久米南条稲岡庄の豪族だった父・漆間時国と母・秦氏の間に生まれたのが、浄土宗の開祖・法然上人。「誕生寺」はその生家があった場所に建っています。建久四年(1193年)に熊谷直実により開基されました。熊谷直実は源平合戦の一の谷の戦いで平敦盛を討ち取ったことで知られる鎌倉時代の武将で、自分の息子ほどの若者を討たなければならなかった戦の世の無情に心を傷め、その後悔の念から出家して法然上人の弟子となった人です。

国指定重要文化財の山門

正徳六年(1716年)創建の山門は国指定の重要文化財。浄土宗寺院の中では比較的例の少ない山門薬医門の典型的な様式で装飾的にも優れています。山門と続く白い水平線が引かれた筋塀は安政四年(1857年)伏見宮家より寄進されたもので、5本の線は皇室に由来する最高の格式を表しています。

境内にも見どころがいっぱい

御影堂と呼ばれる本堂は、寺院建築ではめずらしい唐破風造りの向拝を持つ建物。天正七年(1579年)に宇喜多直家によって2代目の本堂が破壊され、元禄八年(1695年)に約1世紀もの期間をかけて再建された現在の本堂は3代目となります。
向拝の下には、かつて「誕生律寺」と呼ばれていた名残の扁額が掲げられています。よく見てみると周囲には菊花や葵の御紋があり、皇室や徳川幕府との結びつきも感じられます。また、屋根の下の梁には龍や麒麟といった神獣の彫刻が施されており、美しく繊細な寺社彫刻も堪能できます。本堂へ上がる階段が6段なのは、菩薩が悟りに至るまでの六つの修行「六波羅密」を踏みしめて、という意味があるそう。建物からの教えに気づくとより感慨深いです。
本堂内には法然上人自刻の御影がご本尊として祀られています。左手に数珠を右手に蓮のつぼみを持った等身大の木像は浄土宗を開いた43歳の時の姿。このご本尊は、江戸時代に多くの人が拝観できるよう「出開帳(でがいちょう)」で江戸まで赴き、徳川綱吉の生母・桂昌院にも喜ばれたそうです。ほかにも本堂には襲撃を受ける前に川の中で光を発して異変を報せ、本尊が焼けるのを救ったといわれる誕生寺七不思議のひとつ「石仏大師」など、見ておきたいものがたくさんあります。
境内でひときわ存在感を放つ大木は、15歳の勢至丸(のちの法然上人)が比叡山に旅立つ際に杖として使っていた枝を地面に挿したものが根付いたと伝わる、樹齢約870年のイチョウの樹です。まるで根が広がるように枝が延びていることから「逆木のイチョウ」と呼ばれています。
初夏から夏の青葉の頃も壮観ですが、枝に茂る葉や地面が鮮やかな黄色に染まる秋は特に美しく、毎年11月の紅葉シーズンには多くの人がその姿を愛でに訪れています。
森蘭丸の弟で初代津山城主・森忠政より寄進された「観音堂」。江戸時代、回向院や増上寺などへの出開帳の際に八百屋お七の遺族より振袖を託され、その供養を行ったことから"お七観音”とも呼ばれています。現在お七の振袖は本堂に展示されており、実物を見ることができます。
勢至丸が9歳の時、弓削に住む明石源内武者定明に夜襲を受け、父・漆間時国を喪います。夜襲の際に勢至丸は定明の右目を射ち、射たれた定明が目を洗ったとされる川が境内を流れています。その後、川には片目の魚が出現するようになり、片目川と呼ばれるようになったそう。川に架かるすべてが石造りの無垢橋も、建造物として貴重なものなので必見です。
本堂の横にある方丈と庭園は9:00~16:00まで見学が可能です。唐獅子の間、鷹の間、人物の間などがあり、座敷をぐるりと囲む廊下を通って襖絵などが鑑賞できます。拝観料は200円。
襖絵の作者は江戸時代の狩野派の絵師・法橋義信。賢人や鷹、獅子などが描かれた襖絵、鮮やかな色彩が残る花鳥植物の板絵など、見ごたえのある作品ばかり。
方丈庭園「法楽園」。方丈の入口から座敷の襖絵越しに見るこの場所はおすすめの撮影ポイント。木々に囲まれた庭には清涼な空気が漂っていて心地よく感じられます。秋にはもみじが色づき、また違う表情が楽しめます。

寺務所ではお守りやお土産の購入も

法然上人の両親が神仏に心をこめて子が授かるように願い、元気な子どもが生まれたことから、子宝祈願に訪れる人も多い「誕生寺」。寺務所では子宝・子授祈願と安産のお守りが購入できます。
イチョウの葉の形をした誕生寺オリジナルの文香。緑の葉と黄色の葉の2種類あります。手紙に添えるだけでなく、手帳に挟んだり財布に入れたりして、香りを楽しむのも素敵です。

朗らかでお話上手なご住職

ご住職の漆間勇哲さんは、親しみやすいお人柄で話し上手。難しいと思いがちな仏教の話が身近に感じられました。法然上人の生い立ちや誕生寺の歴史、縁の人々の物語、建物の見どころ、お寺に伝わる七不思議など、どの話も思わず聞き入ってしまいます。誰でも気軽に参加できるお寺でのイベントも考えられているそうです。

4月に行われるお会式は日本三大練供養のひとつ

4月の第3日曜日に行われているお会式は、室町時代から始まった法然上人の御両親を供養する浄土宗唯一の大法要です。本堂を極楽浄土に、山門手前の娑婆堂を現世に例え、二十五菩薩の来迎によって上人の御両親を浄土へお迎えする儀式で、日本三大練供養のひとつに数えられています。

年間を通じて様々なイベントも開催

年間を通じて様々なイベントも開かれています。写真は夏のキャンドルコンサートの様子。境内で音楽ライブや剣舞などのライブ、ワークショップのほか、日が暮れてからはライトアップも行われました。※ここ数年はコロナで中止になっています。

見どころいっぱい! じっくりゆっくり訪ねてみよう

法然上人の産湯に使われた井戸や両親の墓、比叡山へ旅立つ際の15歳の像のほか、胎内から刷仏が発見された阿弥陀如来立像、尾張徳川家お抱えの時計師・津田助在衛門作の櫓時計、豊臣秀吉から賜った茶釜などが展示されている宝物館、法然上人の肌の温かさを保ち続けているという“れん木”や法然上人の顔だけ焼けなかった文楽人形といった「誕生寺七不思議」など、見どころがいっぱいです。ぜひ、ゆっくりと訪ねてみてください。

住所:岡山県久米郡久米南町里方808
TEL:086-728-2102
拝観料:方丈・庭園200円、宝物館200円
駐車場:普通車50台、バス20台

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