上竹ホタルを守る会(かみだけほたるをまもるかい)さん

  • 上竹地区のゲンジボタル1

    上竹地区のゲンジボタル1

  • 上竹地区のゲンジボタル2

    上竹地区のゲンジボタル2

  • 上竹地区のゲンジボタル3

    上竹地区のゲンジボタル3

浅口市金光町上竹(かみだけ)地区は、遙照山を水源とする竹川の上流域にあって、古くからゲンジボタルが生息し、例年5月下旬から6月上旬の夜間に、ホタルの飛翔する幻想的な風景が見られます。「上竹ホタルを守る会」は平成15年(2003年)ホタルの保護を目的に、上竹地区の住民有志によって結成。ホタルの順調な生育と、ホタル観賞者の安全のため、定期的に竹川周辺の草刈りや清掃を行うほか、毎年地元の小学校でホタルの生態に関する出前授業を実施。次世代に美しい自然環境とホタルを継承するための取組を行っています。上竹地区は平成23年(2011年)「ゲンジボタル生息地」として浅口市の天然記念物に指定。ホタルの飛翔シーズンには県内外から多くの人が訪れ、岡山県の観光スポットになっています。

ゲンジボタルの生態

世界中に約2000種、日本には約40種存在するといわれるホタル。なかでも、ゲンジボタルは日本にだけ生息しており、幼虫期を水の中で過ごす点が珍しく、世界の生物学者から珍重されています。その一生は約1年間で、淡い光を放ちながら美しい乱舞が見られるのは、最後の10日~約2週間の短い期間のみ。なお、ホタルが飛び交うのは求愛活動であり、交尾から数日後に産卵。約一ヵ月後に孵化し、8月頃~3月頃にかけて、川の中で数回脱皮しながら大きくなります。そして4月頃の雨の降る夜に川から上陸。湿った柔らかい土の中に潜って約50日後にサナギになり、その後成虫となって飛び立ちます。「ホタルはきれいな川でないと生きられない」と言われる通り、ゲンジボタルには厳しい生息条件があり、それは①清流があること、②餌となるカワニナ(淡水性の巻貝の一種)がいること、③川岸に幼虫が潜ることができる土があることの3つ。上竹地区はその条件がそろう県内でも希少な土地といえそうです。

上竹ホタル絶滅の危機

「昔から、上竹で暮らす人々はホタルへ深い愛情をもっていました」。そう話すのは、「上竹ホタルを守る会」の設立当初から代表を務める瀬良憲昭さんです。今回、瀬良さんに上竹地区のホタルと会の取組について詳しいお話を伺いました。今では希少な存在となったホタルですが、瀬良さんが子どもの頃は決してホタルは珍しい存在ではなかったそうです。「昔は夜に竹ぼうきを振るだけでたくさんのホタルが獲れました」と驚きのコメント。そんな上竹地区にホタル絶滅の危機が訪れたのは昭和56年(1981年)7月のこと。突然の集中豪雨により発生した土石流によって地区の河川が壊滅。その復旧の方法を巡って、岡山県と地区とで話し合いが行われました。

住民によって守られたホタル

  • ホタルの保護のため川底を石張りに

    ホタルの保護のため川底を石張りに

当初、岡山県からは全面コンクリートで河川の復旧を打診されたそうですが、上竹地区の住民たちはお金をかけても良いからと石張り工法を望みました。その理由として瀬良さんは「ホタルの幼虫は川底で育ちます。川の全面をコンクリートで修復してしまうと、ホタルはもうそこで棲むことはできないのです。ホタルが減ってきた原因はいろいろ考えられますが、川の施工方法が変わったことも大きな要因の一つではないかと思います」。ホタルがいなくなってしまわないよう、県と熱心に交渉を重ね、最終的には河川の両岸のみコンクリートで施工し、川底を石張りとすることで決着しました。地区の安全を考えたら川の全面をコンクリートで施工することがベストなはず。しかし、上竹地区の住民たちは、毎年ホタルを楽しみに訪れる方々のために〝ホタルのいる未来“を選択したのでした。

会の発足とホタル保護のための清掃活動

  • ホタルの幼虫が上陸できるよう草刈りを行う(3月)

    ホタルの幼虫が上陸できるよう草刈りを行う(3月)

  • 川のきれいさを保つためのごみ拾い(9月)

    川のきれいさを保つためのごみ拾い(9月)

「上竹ホタルを守る会」が正式に発足したのは、平成15年(2003年)。上竹地区の住民の一人がおかやま環境ネットワーク主催の「第1回おかやまホタルフォーラム」に参加したことがきっかけでした。参加者から地域のホタルが減ってきている現状を聞いた住民たちは正式に会を立ち上げ、ホタルの保護に乗り出すことに決めました。会のメンバーは上竹地区の区長、組合長と住民有志たちの計約40名。約1年間のホタルの一生に合わせた竹川の清掃活動をスタートしました。清掃は年3回。まず川のきれいさを保つため9月にゴミ拾いを行い、春に川から幼虫が上陸しやすくなるよう、3月に草刈りを行います。さらにホタル飛翔の時期には、観賞者の安全のため通路付近の草刈りも実施。こうした取組が認められ、平成21年(2009年)、岡山県の清掃美化活動を行う「おかやまアダプト」推進事業団体に認定。平成23年(2011年)、浅口市教育委員会より上竹地区が市天然記念物「ゲンジボタル生息地」に指定されました。

ホタルのすむ環境を次世代につなぐ

  • 小学校での出前授業

    小学校での出前授業

  • 防犯灯の照明カバー

    防犯灯の照明カバー

  • 地元小学生によるホタル保護を呼びかける看板

    地元小学生によるホタル保護を呼びかける看板

同会では、ホタルの保護を目的とした清掃活動に加え、地元の子どもたちにホタルの生態と自然環境保護の大切さを伝えるため、浅口市立金光竹小学校での出前授業を毎年実施。授業を通じてホタルのすむ環境を次世代に継承することを目指しています。瀬良さんは「子どもたちはすごく興味を持って聞いてくれます。これをきっかけに郷土の自然や文化を意識してもらえたら」と語ってくれました。さらに、平成24年(2012年)、同会の取組が浅口市の市民提案型協働事業「あさくち未来デッサン」(現:あさくち協働のまちづくり事業)に採択されたことに伴い、ホタルを強い光から守るための防犯灯の照明カバーと、ホタル保護を呼びかける看板を地区に設置。この時設置した看板には、竹小学校の子どもたちが描いたイラストが使われています。

これからもホタルと共に

同会の地道な活動によって、上竹地区では現在も5月下旬~6月上旬にかけての飛翔シーズンに美しいホタルの乱舞が見られます。ピーク時には市内外から一日約100~200人の鑑賞者が訪れ、年々その数は増えてきているそうです。ホタルの時期、竹川沿いに住む瀬良さんは毎晩鑑賞スポットに立ち、訪れた人々を案内しながら「ホタルに光をあてない」「静かに見る」「ホタルを持ち帰らない」など観賞時の注意事項を伝えています。「初めてホタルを見る人や子どもたちの喜ぶ姿を見ると、この活動をやっていて本当によかったなと思います。上竹のホタルがいなくなると、浅口市ではホタルが見られなくなるので、これからもがんばりたいですね」。会の発足から約20年。住民が協力し、守り育てたホタルと美しく豊かな自然が広がる上竹地区。環境保護の大切さと共に、地域の魅力を伝える貴重な観光資源の一つとして、次世代に引き継いでいきたいスポットです