かも川手延素麺株式会社

  • 本社工場

    本社工場

  • 備中鴨方地域(浅口市鴨方町)

    備中鴨方地域(浅口市鴨方町)

  • 手延べうどん

    手延べうどん

  • 手延素麺

    手延素麺

備中鴨方地域(浅口市鴨方町)は、江戸時代から手延べ麺の産地として栄え、その周辺で作られる麺は「備中手延べ麺」として全国的に知られています。同地で、1972年(昭和47年)に創業したかも川手延素麺株式会社は、その名の通り、当初は素麺の製造がメインでしたが、1975年(昭和50年)国内で初めて手延べうどんの製造ライン化に成功。以降は手延べうどんを中心に製造を行ってきました。江戸時代から伝わる手延べ製法を継承しつつ、時代のニーズに合わせたバラエティー豊かな製品を国内外に送り出すほか、麺作り体験や工場見学、直売所兼飲食施設「麺(めん)蔵人(くらんど)」のオープンなど、地域の物産振興につながる取組を行っています。

備中手延べ麺の歴史

  • 江戸時代に小麦粉を挽いていた水車

    江戸時代に小麦粉を挽いていた水車

岡山県の備中鴨方が麺の産地として栄えたのには、理由があります。地元・遥照山から湧き出るきれいな水と、瀬戸内海の塩田で製塩された塩、高梁川流域でとれた小麦粉など、良質な原料がそろい、「晴れの国」とも呼ばれる温暖な気候が麺づくりに適していたからです。また、始まりは江戸時代後期にさかのぼり、素麺づくりが盛んだった播州から職人を招いた一人の村人が、水車製粉と播州の技術を駆使し、基礎を作ったと言われています。その製法は、小麦粉に塩水を入れて練り上げた生地を長い棒状にし、寝かせては延ばしを繰り返す手間のかかるもの。約30時間かけて完成する麺は、もっちりとした弾力があり、茹で上がった後のつるつるとした喉越しが特長です。同社では、この製法を受け継ぐ職人の手によって丹精込めて製品づくりを行っています。

手延べ麺の製造を国内で初めてライン化

  • 代表の藤原正美さん

    代表の藤原正美さん

3代目代表の藤原雅美さんは麺作りや独自の取り組みについて「刃物を使わず、人手で延ばし細くする手延べ麺は、独特のコシと食感を生み出す反面、手間と時間がかかるのが最大の弱点でした。そこで手延べ麺の量産化について研究し、全国で初めて手延べうどんの製造ライン化を実現しました」と語ります。この成功により、同社は国内シェアを大きく伸ばしました。「一部手作業の行程を残すことで江戸時代から継承される味を守っています」とのこと。こうした独自の技術をもとに、1998年(平成11年)、「かも手」ブランドを立ち上げました。夜明け前にこねた一番おいしい味を届けたいという想いから開発した「一番のばしシリーズ」をはじめ、バラエティ豊かな製品を家庭用から業務用まで製造しています。

「麺づくり体験&工場見学」で伝統の技を伝える

  • 麺づくり体験

    麺づくり体験

  • 工場見学

    工場見学

  • 修了後に卒業証書も

    修了後に卒業証書も

また、1990年頃から「麺作り体験&工場見学」として「手延麺師大学」をスタート。江戸時代から伝わる職人技を実際に体験でき、自分で作った麺は昼食で食べられるほか、お土産として持ち帰ることも可能。そして修了後には卒業証書も授与されます。同企画は小中学生の修学旅行や旅行会社のツアーなどで人気を集め、コロナ禍前は年間約1,000人の利用があるなど、手延べ麺の魅力を県内外に広く伝えました(現在は予約分のみ受付)。

直売所兼飲食施設「麺蔵人」をオープン

  • 麺蔵人

    麺蔵人

  • 店内で素麺流しができる

    店内で素麺流しができる

  • 直売所

    直売所

  • 足湯

    足湯

  • うどんスイーツ

    うどんスイーツ

  • 年3回イベントを開催

    年3回イベントを開催

2006年(平成18年)、本社工場から約1kmの場所に直売所と飲食施設を兼ねた
「麺蔵人」(めんくらんど)」をオープン。藤原さんはその理由として「バイヤーや問屋だけでなく、お客様と直接触れ合える場を持つため」と語りました。同施設の一番の魅力は朝4時から製造した工場直送の麺が味わえること。一年中利用可能な素麺流しの設備もあり、食事の後にお土産を見たり、無料の足湯も楽しめます。出来立ての麺は小麦の風味が強く、麺の粘りや弾力があると評判で、市町村や隣県からもリピーターが訪れるそう。最近では、うどんスイーツなど新たなメニュー開発にも取り組み、若い世代の取り込みにも積極的です。また、春と夏と冬の3回、イベントを実施。商品券のプレゼントやガラポン抽選会などがあり、毎回多くの利用客で賑わいます。こうした取組みの結果、現在、麺蔵人の利用者数は年間約4万人以上にものぼります。

手延べうどん体験キットの販売と海外進出

  • 手延べうどん体験キット

    手延べうどん体験キット

  • ボストンでの実演販売の様子

    ボストンでの実演販売の様子

地道に手延べ麺のファンを増やしてきた同社でしたが、コロナ禍に苦境を強いられました。レストランやスーパー等に出荷していた麺の受注が、ほぼストップ。そんな中、設立50周年を迎えた2022年(令和2年)、現状打破を図るべく家庭用の手延べうどん体験キットを制作し、クラウドファンディングで販売することに。「うどんといえば『手打ち』と思われることが多く、あらためて手延べ製法のうどんを知ってほしかった」と藤原さん。冷凍で送ることで家庭でも手延べうどんが作れるこのキットは話題になり、同社および「備中手延べ麺」の知名度アップにつながりました。さらにこの時開発した冷凍技術で海外への安定的な輸出が可能になり、2023年(令和5年)、ボストンで手延べ麺の実演販売が実現。現地の評価は高く、今後も販促活動の継続が決まっています。藤原さんに今後の展望について尋ねると「国内だけでなく海外にも認められるようがんばりたい。いつか逆輸入が実現できたら」との言葉。約半世紀にわたり、郷土が誇る手延べ麺の魅力を発信し続けている同社。国内から海外へ、その挑戦はまだまだ続きます。