(株)やかげ宿/佐藤公志さん

江戸時代には大名行列の往来する宿場町として栄え、今でも当時の古い町並みが残る矢掛町。佐藤公志さんは、そんな宿場町・矢掛の賑わい創出を目的に、平成25年(2013年)に設立された第三セクター、(株)やかげ宿の立ち上げ時からの主要メンバーとして、運営に携わってきました。矢掛町で生まれ育ち山口大学に進学後、在学中に始めた飲食業を約10年間経営。その後、複数の会社勤務を経て、矢掛に帰郷しました。知人からの紹介で(株)やかげ宿の求人募集を知り、「地元のために何かできたら」と同社へ。以来、イベント運営や指定管理施設の活用などを通じ、矢掛のまちづくりの中心人物として観光振興に大いに貢献しています。

まちづくり組織への参加

  • 旧矢掛本陣石井家住宅

    旧矢掛本陣石井家住宅

  • 本陣通りの町並み

    本陣通りの町並み

「町づくりに関しては、最初私はまったくの門外漢でした」と笑う佐藤さん。岡山県の南西部に位置する矢掛町は、江戸時代には旧山陽道で18番目の宿場「矢掛宿」が設置され、今も大名らの宿泊所であった本陣と脇本陣の両方が残る日本で唯一の町として知られます。佐藤さんが幼少時代を過ごした昭和30年代には、本陣と脇本陣の残るメイン通り(本陣通り)はとても賑わっていたそうですが、年月の経過とともに徐々に人通りが減ってきたことを実感したといいます。定住人口の減少や空き家問題を含め、町のこうした現状に危機感を覚えていました。それを打破すべく立ち上がったのが、第三セクターのまちづくり組織である(株)やかげ宿です。同社の立ち上げ時のリーダーは、岡山市に本社を置く百貨店出身で、百貨店時代の経験やコネクションなどを活用しながら、様々なイベントを企画。それらの企画を形にしていくことが佐藤さんの最初の仕事でした。

 

やかげ朝市など様々なイベント運営に携わる

  • 宿場町矢掛の日曜朝市

    宿場町矢掛の日曜朝市

  • やかげ郷土美術館

    やかげ郷土美術館

  • 全国的にも珍しい吊り行灯

    全国的にも珍しい吊り行灯

佐藤さんはリーダーと一緒に仕事をする中で、その企画力に心から驚かされたといいます。まず『宿場町には着物が似合う』と、やかげ郷土美術館で着物の絞り染めの展示「一竹辻が花展」を企画。同展は入館者数約7,000人と美術館開館以来の数字を叩き出し、その結果、町には和服姿の観光客があふれかえりました。「この成功を受け、町の人たちは観光客の受け入れに積極的になった気がします」と佐藤さんは振り返ります。また、『観光地には必ず朝市がある』と、平成26年(2014年)、毎月第二日曜に「宿場町矢掛の日曜朝市」をスタート。当初は10店舗くらいしか集まらず苦戦を強いられましたが、佐藤さんは売上が伸びるよう出店者の配置を変えたり、地元農家からの直送野菜を販売するなど様々な工夫を凝らしました。その結果、口コミで出店者が増え、今では50店舗を超える名物朝市へ成長しています。

やかげ夏の行灯まつり

  • やかげ夏の行灯まつり

    やかげ夏の行灯まつり

  • やかげ小唄おどり

    やかげ小唄おどり

  • 全国的にも珍しい吊り行灯

    全国的にも珍しい吊り行灯

  • 行灯は地元の切り絵同好会と矢掛高校書道部のコラボで作成

    行灯は地元の切り絵同好会と矢掛高校書道部のコラボで作成

令和6年(2024年)に10年目を迎えた「やかげ夏の行灯まつり」は町の活性化を目指して(株)やかげ宿が企画したものです。佐藤さんは地域住民との細かい調整など、準備に奔走。まつりに使われる行灯は、地元の切り絵同好会と矢掛高校の書道部のコラボで作成した全国的にも珍しい「吊り行灯」で、矢掛の町並みを淡く照らして、宿場町の雰囲気を演出しています。そして、まつりのメイン行事となるのが「やかげ小唄おどり」。約70年前まで地域で盛んに唄われていた「やかげ小唄」の音源を探し出して復活させ、新たにおどりも振り付けました。そろいの編笠と浴衣で着飾った約50人の踊り手による情趣豊かなおどりは県内外で大変評価が高く、今ではたくさんの観光客が訪れる「矢掛の夏の風物詩」となっています。

やかげ町家交流館の運営

  • やかげ町家交流館

    やかげ町家交流館

  • 観光案内と土産物販売

    観光案内と土産物販売

  • 谷山サロンのイベント(寄席)

    谷山サロンのイベント(寄席)

  • 谷山サロンのイベント(コンサート)

    谷山サロンのイベント(コンサート)

平成26年(2014年)2月、同社が指定管理する観光交流施設「やかげ町家交流館」がオープン。同館は矢掛町の再生事業で築80年の古民家を改装したもので、観光案内・土産物販売のほか、誰でも気軽に休める休憩所として一般開放されています。特筆すべきは、館内の多目的ホール「谷山サロン」で毎週日曜に開催されるイベントで、コンサート、講演会、落語会などバラエティーに富んだ内容で行われています。「イベントは毎回手作りのステージを設置してるんですよ。毎週の開催は大変ですが、リピーターの方が多いので続けていきたいですね」と佐藤さん。

矢掛産メニュー考案とビアガーデン企画

  • 矢掛産パッションフルーツのクリームソーダ

    矢掛産パッションフルーツのクリームソーダ

  • 地産地消のランチ・デザートを提供

    地産地消のランチ・デザートを提供

  • やかげ茶屋

    やかげ茶屋

  • ビアガーデン(やかげ西町イベント広場)

    ビアガーデン(やかげ西町イベント広場)

  • やかげ西町イベント広場

    やかげ西町イベント広場

また、やかげ町家交流館に併設の食事処・喫茶「やかげ茶屋」では、地元産野菜や果物を使ったランチやデザートを提供。佐藤さんは、飲食店を経営していた経験を活かし、メニュー開発を担当しています。なかでも、矢掛産のパッションフルーツのクリームソーダは、クリームソーダのイベント中ということもあり、1ヶ月で約900杯の売り上げを記録しました。平成28年(2016年)にスタートして以来、夏の人気企画となっている「町家ビアガーデン」も佐藤さんの発案です。「近隣で夜にお酒を楽しむイベントがないので、すごく喜んでもらっています」と佐藤さん。当初は同館の芝生広場で行っていましたが、令和6年(2024年)からは、同社が新たに指定管理をスタートした「やかげ西町イベント広場」に場所を移動。観光客と地域住民が気軽に交流できる場として注目を集めています。

これからの矢掛の魅力を発信

  • 道の駅「山陽道やかげ宿」

    道の駅「山陽道やかげ宿」

  • 宿泊施設「矢掛屋」

    宿泊施設「矢掛屋」

こうした(株)やかげ宿の地道な活動に加え、宿泊施設「矢掛屋」のオープンや旧宿場町エリアの重要伝統的建造物群保存地区選定、同社の指定管理施設である道の駅「山陽道やかげ宿」の完成など、矢掛町には明るいニュースが続き、本陣通りは確実に賑わいを取り戻していきました。オープン当初に比べると、商店街の店舗数は倍近くになり、観光客数も約30万人増加。佐藤さんはこれまでの功績が認められ、令和3年(2021年)、同社の代表取締役専務に就任しました。「休憩のついでに立ち寄ってみたら、こんな良い場所があったのかとファンになっていただけることが多いです。これからも矢掛の魅力を発信していきたいですね」。多忙を極める佐藤さんですが、さらなる矢掛の魅力アップを目指し、今後の活動にもますます意欲的です。